赤のエースで妄想してみた その1 愛さずにいられない —第二十四話—
ガーデンで眠り込んでしまって起きなかったアンリは、翌日ブランの家までケアリの報告を聞きにきていた。
オリヴァーはアリスと一緒にガレージで作業中だ。オリヴァーはブランの隣ですでにケアリから直接報告を聞いていたし、アリスはアンリのプライバシーに気を遣ってくれたようだった。彼女は、もしアンリが聞いて欲しいと思ったらいつでも話してほしい、と微笑んだ。
今、アンリはブランと二人だけで居間にいた。
「遺産相続?」
アンリは思いがけない言葉を、おうむ返しに繰り返した。
「君のお婆さまのアンリエッタの生家は結構な資産家でね。今彼女の弟、君の大叔父にあたる人が当主となっている」
「私に大叔父様がいるなんて知らなかった。フランスに住んでいらっしゃるの?」
「ああ、ブルターニュの屋敷に。あまりアンリエッタの実家の話はできなかったんだろう。ロイとアンリエッタは駆け落ち同然だったからね」
「えっ!」
初めて聞く話ばかりだ。あの冷静な祖父が駆け落ち。
「情熱的だろう?やっぱりロイは君には秘密にしていたんだね。僕がバラしてしまって、怒ってるかもしれない」
ブランは驚くアンリを見て、楽しそうにクスクス笑った。
「でも、どうして突然……」
「君の学校が新聞で紹介されただろう。その時に、君が顔写真付きでインタビューに答えていた」
「ああ……」
看護学校が紹介され、アンリは何人かの学生と一緒にインタビューに答えたことを思い出した。でも記事は小さなものだった。
「あの写真をたまたま君の大叔父が見つけたらしい。あまりにもアンリエッタに似ているからと調べて、君が彼女の孫だと知った」
ブランは目を伏せると、紅茶を一口飲んだ。
「私とおばあさまはそんなに似ているの?」
「そうだね。目元は、君の方が優しい印象だ。アンリエッタはもっと勝気そうな目をしていた。中身はもっとよく似ているようだけどね」
ブランは懐かしそうな目でアンリを見つめた。
祖父もよくこんな目でアンリを見ていた。
「……君の大叔父には、子供がいなくて。遠縁のはとこの子供か何かを養子にして、その息子が相続人となっていた。だけど君のことを知ると、君を引き取りたいと言い出した」
「えっ」
アンリには、一度も会ったことのない大叔父が家族だとはとても思えなかった。アンリにとって家族は亡くなった両親であり、祖父母であった。
「もしかして、それで、相続人の方が……」
ブランがアンリの疑問を肯定するように、辛そうに眉を寄せた。
「そんな、そんなことのために」
「アンリ、長く生きているとね、いろんな人間に会う。このクレイドルにさえ、本当にいろんな人間がいるんだ。中にはどうにも理解できないような人もいる」
アンリはひどく疲れた気持ちでブランの言葉を聞いていた。
「だけどアンリ、相続は君の正当な権利でもある。君の大叔父に会いたいかい?」
「いいえ。遺産もいらない」
アンリは即答した。
「そんな人たちに関わりたくない」
「そうか」
ブランはホッとした顔で微笑んだ。
「彼らに君を探す手段はない。放火も、君がクレイドルに来てからは起きてない。君はロンドンのことはもう心配せず、クレイドルで生きていけばいい」
「うん……。ありがとう、ブラン」
ブランは目を細めた。
「君がクレイドルにいてくれて嬉しいな。本当はロイがいなくなった時に、君をクレイドルに連れて帰ろうかと考えていたんだ。もうクレイドルも平和になったんだ、どうかもっと頻繁に会いにきてくれると嬉しいな」
「ありがとう」
「今度はゼロも連れておいで。ロイの代わりに孫の恋人をしっかり見定めないとね」
「えっ」
アンリは赤くなって、うろうろと視線を彷徨わせた。
「えっと……、あの、恋人じゃ……ないの」
思わずまた「まだ」と付け足しそうになって、慌ててアンリは口を閉じた。
「おや、驚いた。彼はまだ君に何も伝えてないのかい?特攻隊長なのに、ずいぶんのんびりしてるな」
ブランがわざとらしく目を丸くした後で、クスクスと笑い出した。
「いつだったか、セントラルで一緒に飲んだ時から、彼が君に恋をしているのは一目瞭然だったよ」
「えっ」
そんなに前から。
「あの場にいたみんなの意見が一致してたよ。ふふ。人はある恋を隠すことも、ない恋を装うこともできない、っていうのは科学の国の言葉じゃなかったかな」
ブランが祖父と同じ言葉を言って、微笑んだ。
きっとアンリの恋も一目瞭然なのだろう。多分、ゼロを思う気持ちがあふれて、そこらじゅうにこぼれてしまっているのだ。
アンリは何も言えず、頬を赤らめて目を伏せた。
ブランはアンリに、後で好きな時にゆっくり読めば良い、とケアリの調査結果の書類が入った封筒を手渡した。
今は、読む気にはならなかった。知らなかった血縁者のことも、十分裕福なのに、お金のために犯罪を犯すような人たちのことも。今までアンリを知らなかった、ということは、アンリの祖父があえて縁を切っていたということだ。
ブランとの話が終わった後で、アリスやオリヴァーも一緒に遅めのランチをとった。時々考え込むように無口になってしまうアンリを、3人はそっとしておいてくれた。
アンリはオリヴァーの、口の悪さとなぜか両立できている細やかな気遣いに改めて感服した。アリス、ブランの優しさに安心した。3人の心遣いが、ありがたかった。
この後は、仕事を終えたゼロと待ち合わせて、ターナー牧場に行く予定だ。
(早く、ゼロに会いたい)
ただ、ゼロの顔を見るだけでよかった。きっとそれだけで、アンリは安心できる。
ゼロとの待ち合わせ場所には、アリスとオリヴァーが、買い物のついでだからと一緒に来てくれた。ゼロが来るまで付き合ってくれるつもりのようで、3人並んで、待ち合わせ場所で立っていた。
今、アンリとアリスの間にいるオリヴァーは、ローティーンの少年の姿をしている。アンリは昼間この姿のオリヴァーに会うのは、今日が初めてだった。昼間はこの姿だ、ということは教えてくれたが、理由までは説明してくれなかった。
「お前、割とあっさり納得したな」
オリヴァーがポツリと言った。
「目の前で起きてることを否定しても仕方ないってお祖父様が」
「ふん、賢明なお祖父様だな」
「それに、同じぐらい不思議な人をもう一人知ってるし」
「……そうか、お前はうさ爺の昔からの知り合いだったな」
3人の間に沈黙が落ちた。
アンリは目の前の通りを見るともなしに眺める。
このあたりは夜営業を始める飲食店が何軒かあるだけで、今はどれも閉まっているため、人通りはそれほど多くはなかった。親子連れや、恋人同士のような若い二人連れが時々通り過ぎる。中には毛布でくるんだ子供を抱いている男もいた。アンリはその姿がなんだか不自然で目を留めた。大切な子供を抱いているというよりは、荷物を担いでいるかのように見える。じっと見守っていると、男が子供を抱え直した拍子に、毛布がずれて、子供の髪が見えた。
アンリは、そのおさげとリボンに見覚えがあった。
「オリヴァー、ごめん、これ持ってて」
「なんだよ、おい」
「ちょっと気になって……」
アンリはブランにもらった書類の入った封筒をオリヴァーに強引に預けると、男に近づいて行った。
「待って、あなた、ターナー牧場の人なの?」
アンリは子供を担いだ男の肘のあたりを掴み、声をかけた。
「な、なんだお前!」
毛布からのぞいた、担がれた子供の顔は、やはりベッキーのものだった。
「ベッキーをどうするつもり?……、誰か、助けて!人攫いよ!」
アンリはベッキーの毛布に手を伸ばすと、大声をあげた。
オリヴァーとアリスが慌てて駆け寄ってくる。閉まった店の奥から、何事か、と人が出てきた。ベッキーを抱えた男は舌打ちをした。
「くそ、この女……!」
男はアンリを振り解こうと腕を振り回したが、男のひじが当たっても、アンリは歯を食いしばり、ベッキーを離さなかった。
蹄の音が聞こえ始めたかと思うと、どこからか勢いよく2頭の馬が駆けてきて、男はそのうちの一頭にベッキーを抱えたまま飛び乗った。アンリは背後から、別の男に口を塞がれ、抱え上げられた。
「おい、これ以上人が集まる前に逃げるぞ!」
「駄犬……!」
アンリに手を伸ばしたオリヴァーは、馬の足に蹴飛ばされそうになり、道に転がった。アリスが慌ててオリヴァーを助け起こした。
慌てて起き上がったときには、もう馬は姿を消していて、蹄の音も遠くなっていた。
「くそ……!ポンコツ、お前は黒の軍の連中に連絡しろ。一人で行けるか?」
「わかった。任せて」
アリスはしっかりした表情で立ち上がると、黒の領地に向かって駆け出した。
オリヴァーは立ち上がると、人通りの多い通りに向かった。ゼロたちが近くにいるはずだった。2ブロックほど走ったところで、赤の軍の制服を来た男を見つけた。
「おい、お前!赤のエースのところへ俺を連れて行け」
「何だ?お前」
兵士はオリヴァーが子供の姿だからか、あからさまに侮っている。
「早く!お前らの看護師が誘拐されたんだぞ」
「何を言っているんだ、このガキは」
「待て、どういうことだ」
話の通じない兵士の後ろから、別の兵士の声がした。
「ボリス?」
オリヴァーはボリス、と呼ばれた男に今さっき起こったことを手短に説明した。
「……来い」
顔色を変えたボリスはオリヴァーを引きずるようにして、早足で歩き出した。
オリヴァーは手を外そうとしたが、ボリスの手はびくともしない。
やがて彼らは細い路地を進んでいった。
「隊長!」
ボリスが呼び掛けたのは、私服姿のエドガーだった。ゼロとマリクも一緒だ。
3人はボリスとオリヴァーの様子に目を丸くした。
オリヴァーはボリスに引きずられながら必死に走ったので、息を切らしていた。
「オリヴァー!遅くなってすまない。ちょっと黒の領地でトラブルがあったらしくて……」
オリヴァーは、ゼロの言葉を遮って叫ぶように言った。
「それどころじゃない、駄犬が誘拐された」
「何?」
息を切らしながらも必死なオリヴァーの説明を聞き、3人は顔色を変えた。
「……やっぱりリードをつけておくべきだった」
ゼロが駆け出す。
「落ち着きなさい、ゼロ。マリク、ゼロを追って、現場で事情聴取を。ボリス、オリヴァーを連れてキングに報告を」
エドガーの素早く端的な指示に従い、ボリスとマリクが速やかに動きだす。
「我が軍の看護師に手を出すとはいい度胸です」
エドガーはいつものように笑みを浮かべていたが、全身から、見た者がぞっとするような怒気を発していた。
オリヴァーはボリスに荷物のように担がれ馬に乗るという屈辱を味わったが、これが最善と自分に言い聞かせ、耐えた。
アンリを乗せた馬は、森の中を駆けた。
無理な体制で馬に揺られ続けたアンリは、気が遠くなりそうだった。だけど彼女の右手には、まだオリヴァーのくれた兵器がしっかり握られていた。
突然大きないななきが聞こえ、続いて舌打ちが聞こえた。
「馬がダメになっちまった、おい、ここからは魔法で移動するぞ」
アンリは引き摺られるようにして、乱暴に馬から下ろされた。
来たことのない森の中だった。所々に蛍のような、淡い光が見え隠れしている。空な目で周りを確認すると、すぐ近くに、窓がなく、背の高い不思議な塔が見えていた。
アンリの腕を捻り上げている男の手に、大きな魔法石が光る。その魔法石は、アンリの知っている物よりも歪だが、強い輝きを放っていた。
魔法石から放たれた青く鋭い光が、アンリを包み込んだ。アンリは眩しくて強く目を閉じた。
彼女が次に目を開けたときは、もう朽ちた廃墟の前だった。
(これは、お城……?)
アンリは目の前の建物を見上げる。彼女は馬から降りてすぐに腕を後ろに捻りあげられしっかりと掴まれたままだったので、ほとんど身動きは取れない。頭だけを動かしてあたりを見た。周りは鬱蒼とした古木に囲まれているが、彼女たちが降り立ったところは、少し小高い丘になっていた。
目の前に、突然青い光を伴って、鷲鼻の男が現れた。
(また魔法……!)
彼は魔法石を持っていない。ハールやランスロットのように、魔力を持つ人間だと思われた。銀髪を後ろに束ねたその男は、アンリを金属のような温度のない眼で見た。
「なんだ、その女は」
アンリの腕を掴んでいる男はずいぶん大きな男だったが、彼は一言も言葉を発しない。作り物のように無表情な男だった。
「馬を止めているところまで移動するときに見つかっちまって」
ベッキーを抱えた固太りの男が、代わりに吐き捨てるように言った。男の言葉には、アンリが聞き慣れない不思議ななまりがあった。
銀髪の男は舌打ちをする。
「魔法で移動しなかったのか」
「……すみません」
ベッキーを抱えた男が素直に謝った。
この銀髪の男がボスなのだろうか?アンリは男の様子を窺った。
「とりあえず、一緒に入れておけ。邪魔になるようなら処分する」
低い声でそう言った男は、アンリの前髪を掴んで、間近で目を合わせるようにした。明るいグレイの瞳はやはりスチールのようで、温度を感じさせない。
「いいな、娘。生きていたければ、大人しくしていろ」
彼の言葉は比較的聞き取りやすかったが、やはりどこか不自然ななまりがある。
アンリは前髪を掴まれた痛みに顔を歪めながらも、頷いた。
三人の男たちはアンリを連れ、廃墟の中に入って行った。入ってすぐの部屋の床の真ん中にある板を引き上げると、そこに地下に続く階段が現れた。地下は薄暗く、通路の両脇に間隔を置いて吊り下げられた魔法石のランプが唯一の灯だった。降りてしばらく歩くと、鉄格子が見えた。古い地下牢のようだった。
アンリはその地下牢に乱暴に押し込まれた。ベッキーを担いでいた男が、眠るベッキーを毛布に包んだまま床に寝かせた。
「騒ぐんじゃないぞ」
銀髪の男は言い残すと、地下牢に鍵をかけ、あとの二人と共に歩いて行った。
アンリは詰めていた息をそっと吐いた。地下牢の中は通路よりさらに暗く、木箱の上に置かれた小さなランプが点っているだけだった。
アンリはベッキーの様子を見るため、木箱の上のランプを手にした。
何かが動く気配を感じて、とっさにそちらの方をランプで照らしたアンリは、思わず息を飲んだ。
そこには、五人の女の子が身を寄せ合っていて――皆ひどく怯えた顔でこちらをみていた。
ゼロ、エドガー、マリクの3人は、目撃証言を辿り、セントラル地区の外れの、森の近くまで来ていた。このあたりは住居も通行人も少なく、目撃情報もついに途絶えた。3人は手がかりを求め、馬を降り、森に沿って歩いていた。
ゼロの心には、焦燥感だけが募っていった。祈るような気持ちで、少しの手がかりも見逃すまいと、あたりを何度も見回す。
ふわり、と風が吹き、たまたま一番風上にいたマリクが顔をしかめた。
「なんか……おかしな匂いがしませんか?」
マリクに言われ、ゼロも風の匂いに意識を集中した。
知っている匂いだった。どこで嗅いだ?
「アンリだ……!」
ゼロはつぶやくと、風上に向かって移動する。匂いはだんだん強くなってくる。匂いがもっとも強くなったあたりで、ゼロはいきなり四つん這いになって地面の匂いを嗅ぎ始めた。
マリクは隊長の様子に目を丸くしていたが、エドガーはすぐに状況を悟ったらしい。笑みが深くなった。
「上出来です、アンリ」
ゼロは必死で地面からアンリの残した匂いのサインを探る。あの匂いを知っているのは、カイルとヨナ、ゼロだけだ。
四つん這いのゼロの肩がぽん、と叩かれた。傍にしゃがんだエドガーが、ゼロの少し先、地面のある一点を指し示した。
「蹄の後だ。まだ新しい」
注意深く匂いと蹄の跡を辿っていくと、確かに一致しているようだった。
3人は、顔を見合わせ、頷き合った。
ゼロたち一行が、森で見つけた蹄の跡を追跡し始めた頃。
オリヴァーは赤の兵舎の執務室で、突然青く発光し、大人の姿に戻った。
「話には聞いていたが、実際に変身するところを見ると、やっぱり驚くな」
シリウスが目を見開いたまま言った。
「こういう体質なんだ、気にしないでくれ」
今、執務室にはランスロット、ヨナ、ボリス、オリヴァー、そしてシリウスがいた。ボリスとオリヴァーがアンリが事件に巻き込まれたことを報告しているときに、アリスからアンリが巻き込まれたことを聞いたシリウスが、黒の領地で起きた事件を説明しに、赤の兵舎までやってきたのだった。
「シリウス、説明を続けてくれ」
「ああ、……悪い。黒の領地の5〜14歳の娘が5人、今日の午後3時、ほぼ同時に姿を消している」
「姿を消す?」
「言葉通りにな。どのケースも同じだ。乳母や使用人が、一瞬目を離した隙に、忽然と姿を消している。俺たちは、魔法で移動させられたんじゃないかと考えている」
ランスロットの表情が険しくなる。
「娘たちに共通点は?」
「どの子もそれなりに裕福な家の娘だ。だけど身代金の要求など、犯人からのアクションは一切ない……あとは、関係あるのかどうか……皆見事な赤毛の持ち主らしい」
「赤毛?」
「……駄犬が追いかけていったベッキーとか言うガキも赤毛だったぞ」
シリウスとランスロットが驚いた顔でオリヴァーを見る。
「ヨナ、赤の領地で似たような事件は」
「一切報告はありません。まだ、表に出ていない可能性はありますが」
「……念のため赤の領地の赤毛の娘が無事であることを確認し、事件が解決するまで十分注意するように警告しろ」
「はい」
「ボリス、お前は部下を連れてターナーの元へ向かえ。彼らに状況を説明しろ。ベッキーがいなくなった時の情報を集め、報告を寄越せ。残りはそのままターナーのところで控えていろ」
「はい」
ボリスとヨナが出て行った。
「事件が発生した時間からも、娘が赤毛だということからも同じ根を持つ事件だと考えられる。情報は全て共有する」
「わかっている……公会堂に両軍共同の本部をつくろう」
ランスロットが立ち上がったとき、机の上からメモが一枚舞い上がり、オリヴァーの足元に落ちた。
メモを拾い上げ読んだオリヴァーが、緊張していた表情をわずかに緩めた。
「懐かしいな……マザーグースか」
「何?」
ランスロットの鋭い反応に、オリヴァーは目を見開いた。
「いや……ロンドンの子守唄みたいなもんだ。『ライオンとユニコーンが王冠をかけて争った』……ん?これは少し違うな」
オリヴァーはもう一度メモに目を落とした。
ランスロットは目を見開いたまま、固まったように動かなくなった。
「おい、ランス、どうしたんだ」
「……わかった」
シリウスもオリヴァーも異様な様子のランスロットを見つめる。
ランスロットは目の前の何もない空間を茫然と見ている。
「シリウス、あの廃墟だ。7年前、俺たちが――」
「あの廃墟がどうしたんだ」
「おそらくあそこに、アモンが隠していた魔法石がある」
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