身体で愛し合うことを覚えたばかりの頃。
わたしはディアボロが好きだという気持ちだけを大事に抱えて、ただ彼の熱に翻弄されていた。
ディアボロはとても優しかったけれど、容赦のない快楽に攫われ、ただ身を任せるしか術はない、それは被食にも似た行為だった。
すぐに体は馴染んでいった。裸であの腕に抱きすくめられるだけで、わたしの体は熱を持ち、彼を求めた。
だけど心は置き去りのまま、いつも少しだけ緊張していた。時々、自分はおかしいんじゃないかとか、嫌われてしまうんじゃないかとか、妙なことを心配したりもした。
ある時、散々彼の指に翻弄された後で、彼がわたしの中に分け入ってくるのをわずかな緊張とともに待っていると、彼が急にぴたりと動きを止めてささやいた。
「ねえ」
硬く閉じていた目を開くと、間近に、優しい金の瞳。彼がそっと額を合わせるようにして、微笑んだ。
「君だけが善がるのは狡いと思わないか?」
そして彼はびっくりしているわたしを抱きしめたまま、くるりと体制を入れ替えたのだった。
わたしは体の芯に痛いほどの熱を持ったまま、ディアボロの上で途方にくれた。どうしていいのかわからない。ついに彼がわたしの未熟さに呆れてしまったのかと不安になった。
だけどディアボロがわたしを見つめる目は変わらず優しかった。
「君の好きにしてくれていいんだよ」
金の瞳が含む甘さに励まされるように、わたしはそっと彼に口付けた。戸惑いながらも舌を差し込むと、かすかに歓迎するような声が聞こえて、彼が喜んでいるのがわかった。それが嬉しくて、わたしは少しずつ大胆になっていった。頬に、耳に、首筋に。彼がわたしにするように、唇を滑らせてゆく。滑らかな褐色の肌を掌で撫であげる。適切な場所に適切な方法で触れた時には、彼が吐息で、声で、悦びを伝えてくれた。
彼が悦んでくれるのが嬉しかったわたしは、彼に上陸した探査機のように、つぶさに彼の身体を探っていった。両肩から指先、胸から腹部、つま先から陰嚢の裏。その内側への侵入さえ彼は許してくれた。
そういえば、この髪を伸ばし始めたのも、あの時、偶然下腹部をわたしの髪が滑った時、彼がとても気持ちよさそうな声をあげたから。
今ならわかる。
あの夜彼は、初めてのことばかりで戸惑っていたわたしを自由に解き放ってくれた。
愛し合う方法に正解なんてない。
わたしと彼、二人だけの世界なのだと教えてくれた。
わたしは彼だけのもので、彼はわたしだけのもの。
二人で抱き合う時、私が非力で無知蒙昧な人間であることも、彼が魔界を統べる次期魔王であることも関係なくなる。契約なんてなくても、彼はわたしだけの可愛い可愛い悪魔——。
「MC、お願いだ、君に触れたい……」
「まだ、だめ」
ディアボロの両手は、何の効力も持たないわたしの命令に素直に従い、やるせなく枕をつかむ。
切なげに眉を寄せこちらを見つめる彼を、わたしはうっとりと見下ろしながら、ゆっくり腰を落とした。ペニスの先端だけを飲み込んだ状態で、身体を揺らす。
「ああ、あ、頼む、頼むよMC、もうイかせてくれ……ッ」
澄んだ金の瞳に涙を滲ませて、今日何度目かの懇願をする、可愛い可愛い、わたしだけの悪魔。
「まだ、だめ……」
彼は眉を寄せ、目を閉じ、限界を訴えるように首を横に振った。開かれた唇から声にならない声がこぼれる。
本当はわたしもそろそろ。ああ、でもやっぱり。まだもう少しだけ、あなたのその表情を見ていたい。
硬くそそり立ったペニスの根元には、可愛らしく結ばれた赤いリボン。もう彼が零したものですっかり濡れてぺしょぺしょになってしまったけれど、わたしがこの魔法のリボンを解くまで、彼は吐精できない。
もちろん彼は、このリボンにかけられたわたしの魔術なんて自分で簡単に解くことができる。だけど、そんなことはしない。
これはわたしたちだけの、秘めやかな遊戯。
「MC、MCっ、もう……っ」
ディアボロがわたしの下でのけぞり、限界を訴える。
彼が腰を持ち上げたせいで、浅く保っていた繋がりが急に深くなった。
「あ……」
思わず声が出る。
彼も悲鳴のような声を上げる。
可愛い可愛い、わたしの悪魔。見えない鎖を引きちぎって、私を組み敷いて。その荒れ狂う熱でわたしを奪って、あなたで満たして。
その瞬間を想像するだけで、昇りつめてしまいそう。
彼と見つめ合う。
切なく細められた金の瞳に、獰猛な光が見え隠れする。
——わかっているよ、君の欲しいものは。
もうこれ以上は待ちきれなくて、わたしはリボンを解いた。
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