ゼロBD2020 カウントダウン 〜ゼロのお誕生日まで、あと4日〜
ゼロの誕生日まで、後三週間ほど。
それなのに、アンリはプレゼントの良い案が浮かばず、途方にくれていた。
ゼロはアンリの家族で、友達で、恋人。誰よりも大切なひと。
ずっと一緒にいるはずなのに、どうしたことだろう。
(ゼロの好きなものって、キャンディしか思い浮かばない……!)
あとは、剣。だけどそれはアンリには縁遠いものなので、どうにもできない。
ゼロはいつだってアンリを喜ばせてくれるのに。
悩みに悩んだアンリは、医学雑誌を読みながら医務室のソファに寝転がっているカイルに相談してみることにした。
「キャンディ以外であいつの好きなもの?お前それ、本気で聞いてんの?」
カイルは呆れたような顔をした。
もちろんアンリは本気だ。
「カイル、知ってるの?」
「そりゃもちろん知ってっけどよぉ」
カイルはあくびをしながら、がりがりと自分の頭をかき混ぜる。ボサボサになった髪の間からアンリをちらりと見ると、ため息をついた。
「いや、やっぱ俺が教えることじゃねーわ」
結局、カイルは教えてくれなかった。
ヨナに尋ねてみたときも、やっぱり呆れたような顔をされた。
「そんなの、俺が教えることじゃないでしょ」
と、カイルと同じようなセリフと共に、そっぽを向かれてしまったのだった。
ランスロットにも尋ねてみたが、やっぱり驚かれて、次に真面目な顔で
「これは俺が教えるようなことではないだろう」
と言われてしまった。
アンリは、ふと、ランスロットと剣の手合わせをした時に、ゼロがとても楽しそうだったことを思い出した。そしてついため息まじりに呟いてしまった。
「私がヨナさんやランスロット様だったら、ゼロを喜ばせることができるのに」
それを聞いたランスロットは、眉間に深い深いシワを寄せ、今まで見たことがないような、奇妙なものを見る目でアンリを見たのだった。
キャンディと剣以外に、ゼロが好きなもの。
アンリにはわからないけれど、赤の軍のみんなは知っている。
これは由々しき事態だ。
まるでアンリにはゼロのことがこれっぽっちも理解できていないのだ、と突きつけられているようで、落ち込んでしまう。
「なるほど、なるほど。それで再び俺のところに相談に来たんですね」
エドガーはにこやかに頷きながら、優雅な仕草でティーカップを持ち上げた。
先週アンリにゼロの誕生日を教えてくれたのはエドガーだった。その時は、きっとゼロを喜ばせて見せる、と張り切っていたのだが、結局降参して、再びエドガーに相談することとなってしまった。
「ゼロはいつも私が嬉しいことを知っていて、喜ばせてくれるの。せっかくのお誕生日なんだから、私もゼロを喜ばせたいの。それなのに、改めて考えてみると、ゼロが好きなものもわからないなんて……」
アンリはすっかり気落ちしていた。
エドガーは目を細めた。
「そんなに落ち込まないでください。貴女に問題があるわけではないと思いますよ。ゼロはね、好きなものがまだ少ないんです。俺もキャンディと剣と、後いくつかしか思いつかないな」
アンリは、すぐにでも「後いくつか」の内容を聞きたかったが、我慢してエドガーの言葉の続きを待った。
「その代わり、好きになったものはとことん好きになるみたいですね」
それはわかる気もする。
ゼロのポケットの中にはいつもキャンディがたくさん入っているし、いつだって剣には夢中になる。
「そういうところは、ちょっと羨ましくもあるな」
エドガーは小さな声でそういうと、再びいつもの読めない微笑を浮かべ、アンリを見た。
「ねえ、アンリ。もしかしたら貴女はゼロの近くにいすぎて気付いていないことがあるのかもしれませんよ。軍の外、赤の領地に住む知人に相談してみてはどうですか?案外、プレゼントの名案が見つかるかもしれません」
その時のエドガーの顔は、なんだか、どうも何かを企んでいるようにも見えた。
でも彼の提案ももっともらしく思われたし、アンリは本当に悩んでいたので、何人かの知人に相談してみることにした。
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