🐉9 つるバラの顛末を聞いても、バルバトスは悲しそうな顔は見せなかった。ただ、みなさんがご無事でよかった、ときれいに微笑んだ。 だけどガゼボの影に、呪いの影響を受けずに生き残っていたつるバラの株を見つけた時は、とても嬉しそうだった。 ...
妄想の函
🐉6 「実は、数日前から、反対派の連中に妙な動きがあると聞いていた。だから、君を保護するつもりで魔王城に来てもらうことにしたんだ。それなのに、かえって君を危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ない」 「私とルシファーもその情報がずっと頭に...
内緒の殿下 〜誕生祭2021編〜
🐉1 魔界のハロウィンは、殿下の誕生祭。誕生日当日と、前夜祭、後夜祭合わせて3日間、魔界のあちこちで殿下の誕生日を祝い、彼を讃える祭典やパーティーが催される。 ここ魔界での「ハッピーハロウィン」の挨拶は、「殿下お誕生日おめでとう」と言う...
おまけの殿下
うねうねと。無脊椎動物の足らしきものがうねりながら伸びている。その動きは、オズワルドの水色の足によく似ているが、色は彼のものよりずっと暗い、夜の海の色をしていた。意のままに動かすことができたので、それが自分の足だとすぐに理解できた。 うね...
内緒の殿下 〜魔界の太陽 編〜
魔界には太陽がない。 「人間界の太陽が恋しいかい?」 あれは、初めて殿下と二人で迎えた朝。 彼が、ぽつりと尋ねた。 「……少しだけ」 本当は、朝日の昇らない朝を迎えるたびに、太陽を恋しく思っていた。だけどそれを殿下に伝えるのはなんだか...
紅茶派のあなた
バルバトスに美味しい紅茶の淹れ方を習うために魔王城に通うようになってから、しばらく経つ。 この紅茶教室のきっかけは、殿下の一言だった。 殿下が人間界の話を聞きたがっているからと、ルシファーに連れられ魔王城を訪れた時のこと。 当時は、バ...
内緒の殿下2
殿下に助けてもらったお礼を届けるために、RADの執務室を訪ねた。 お礼に選んだのは、ルシファーに教わった、殿下が最近お気に入りだという紅茶。 最初は思い切って手作りのお菓子を、と考えていたんだけど。兄弟たちの「殿下はいつもバルバトスのケ...
内緒の殿下
——今日の会議には、MCも来るように。遅刻は厳禁だ。 朝食の時にルシファーにそう念を押されていたので、授業が終わってすぐに講義室を出て議場に向かった。 RADの作りはちょっとややこしくて、こっちに来たばかりの時は迷子になることもあったけ...
ルシファーの受難
MCの無自覚の恋心は、まるで植物の芳香のように彼女の全身から立ち上り、甘くルシファーを誘う。 彼を見上げる瞳に、彼を呼ぶ声に、蜜のようにひそむ恋。それはまるで遅延性の毒のように、甘やかにルシファーを侵し始めた。 現実なのか、毒の見せる都...
ソロモンの災難
油断した。 まさかあの短い詠唱が終わる前に殴られるとは思わなかったし、俺よりずっと小柄な、しかも人間の女の子のパンチで魔法陣の外までふっ飛ばされることは予測してなかった。 俺は数百年ぶりに情けなく、地面に尻をつけていた。 どこか表情に...