内緒の殿下 〜誕生祭2021編〜


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 魔界のハロウィンは、殿下の誕生祭。誕生日当日と、前夜祭、後夜祭合わせて3日間、魔界のあちこちで殿下の誕生日を祝い、彼を讃える祭典やパーティーが催される。

 ここ魔界での「ハッピーハロウィン」の挨拶は、「殿下お誕生日おめでとう」と言う意味らしい。

 だけど当の殿下は、誕生祭の間はずっとお城に閉じこもっていると聞いた。祭りの最中に殿下が街に現れると、皆が集まって大変なことになってしまうから。殿下は、皆が心置きなく祭りを楽しめるように、この期間は外出を控える。

 魔王城で、街から聞こえる祭りの喧騒に耳を傾けながら、きっと殿下は微笑んでいる。それでもやっぱり、その姿を思うと寂しかった。

 だからみんなで相談して、当日の午前中は「視察」の名目で殿下と街を歩いて、午後は魔王城で殿下の誕生パーティーを開くことにした。「視察」にしたのはベルフェのアイデアで、仕事中なら皆も少しは遠慮して声をかけづらくなるだろうから。メゾン煉獄の3人にも協力してもらって、当日は殿下が囲まれてしまわないように、がっちりガードすることになっている。

🐉2

 まだ午前中だというのに、気の早い打ち上げ花火の音があちこちで鳴り響き、賑やかな音楽が聞こえてくる、前夜祭の日。

 わたしは迷っていた。

 まだ殿下へのプレゼントが決まらない。

 バルバトスのおかげできっと舌は肥えてるし、そもそも次期魔王なら、自力で何でも手に入れられそうだ。それなのに、ピクルス以外ならなんでも喜んで受け取ってくれそうなところが、また悩ましい。

(何がいいかなあ……)

 いつまでも部屋で悩んでいても埒があかない、街に出て探してみようか。そんなことを考えていると、ルシファーが呼びに来た。

「今から魔王城に行く。君も一緒に来るように」

「お誕生会は明日でしょう?」

 尋ねると、ルシファーはちょっと眉を寄せ、困り顔になった。

「今日は今日で手伝うことがあるんだ」

「お手伝い?」

 パーティーの準備はお任せください、とバルバトスは言っていたけれど。

 とりあえず、殿下に会えるのは嬉しいし、その上バルバトスお手製の豪華ランチ付きだというので、二つ返事で魔王城についていくことにした。

 ルシファーの煩わしそうな表情だけはちょっと気になったけど。

🐉3

 8人揃って魔王城を訪れたわたしたちを、万能執事が綺麗な微笑で出迎えてくれた。

「どうぞ、坊っちゃまは温室の方においでです」

 広い城の中、バルバトスの案内で温室へと向かう。

「MCは魔界のハロウィンは初めてですね。街の様子はご覧になりましたか?」

「ここに来る時に、沈黙通りを通ってきた」

 今月に入ったぐらいから、RADの行き帰りに街が飾り付けられ、だんだんハロウィン仕様に変わっていく様子を、わくわくしながら眺めていた。今日は通りにもたくさんの出店が並んでいて、賑やかだった。

「そういえば広場には何もなかったけど、ずっとあのままなの?」

 通りが店で賑わっているのと対照的に、沈黙通りの突き当たりにある広いスペースは飾り付けもなく、ぽっかり開いたままだった。あんなに広いスペースを放ったらかしなんて、なんだかもったいない。

「すぐにわかりますよ」

「あっ、もしかして、何かサプライズがあるの?」

 わたしが期待に満ちた声で尋ねると、バルバトスは笑顔のまま、小首をかしげる。

「サプライズと言えばサプライズですが……。今年はみなさんお揃いで心強い限りです」 

 よくわからないけれど、バルバトスはそれ以上説明してくれなさそう。

 隣のアスモに尋ねてみる。

「ねぇ、今年は、ってことは、毎年みんな来てるの?」

「ルシファーは毎年手伝ってるけど、ぼくは暇な時だけ!ベールとマモンはほぼ皆勤賞かな」

 お手伝い。そういえば、ルシファーもそう言っていた。

 ——一体何を手伝うのだろう?

「ベルフェゴールとレヴィアタンは初めてですね」

 そう言ったバルバトスはなんだか嬉しそうだった。

「まあ、たまには……?」

 ベルフェは頬を掻きながら、ちょっと気まずそうに、そっぽをむいてしまった。

「ぼくはただの賑やかしだけど。昨日の殿下の活躍を労いたくて」

 超巨大なドラゴンを二人で協力して倒したのだ、と上機嫌のレヴィがいつもの早口で説明し始めた。

 断片的に理解できた部分を組み合わせると、レヴィと殿下が近頃ハマっているソーシャルゲームのイベントでタッグを組んだそうで、昨夜はほぼ一晩中二人でドラゴンを狩り続け、チームがランキング一位に躍り出たのだという。

「……なるほど。昨夜早々に自室にお戻りになったはずの坊っちゃまが、なぜ今朝あんなに眠そうだったのかがわかりました。何かお悩みがあるのかと心を痛めておりましたが、全く心配はいらないようで安心いたしました」

 バルバトスの口元は変わらずきれいな弧を描いているけれど、目は笑っていない。

 ルシファーが、そっとため息をついてこめかみを抑えた。

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